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大阪高等裁判所 平成8年(う)427号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人両名をいずれも罰金二〇万円に処する。

被告人Aにおいて、右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

原審及び当審における訴訟費用は、被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件各控訴の趣意は、検察官小池洋司作成の控訴趣意書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は弁護人小野誠之及び同川口直也連名作成の答弁書に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

第一  論旨は要するに、原判決は、被告人Aが就学生を工員として紹介した行為自体はほぼ起訴状記載の公訴事実どおり認めながら、同被告人における就学生の就労時間に関する認識を六時間程度であると認定した上、本件紹介行為の動機ないし目的に不当なものはなく、その紹介の方法ないし態様等も格別非難に値せず、保護法益侵害の程度も軽微であることを理由に、本件紹介行為が出入国管理及び難民認定法七三条の二第一項三号に該当することを否定したが、これは事実を誤認し、ひいては法令の解釈・適用を誤ったものであって、右誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

そこで、所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をもあわせて検討する。

一  まず、本件公訴事実の要旨は、「被告人京都甲野アカデミー株式会社(当時の商号は株式会社乙山・ビジネス。以下「被告人会社」という。)は、京都市東山区《番地略》に本社をおき、同所において外国人を対象とする日本語学校「丙川アカデミー」を経営するもの、被告人A’ことA(以下「被告人A」という。)は、被告人会社の代表取締役兼右丙川アカデミーの事務局長として同校の運営を統括するものであるが、被告人Aは、被告人会社の右業務に関し、別紙一覧表記載のとおり、平成四年九月中旬ころから同六年三月一六日ころまでの間、前後四回にわたり、同校の学生であるBほか三名の外国人(以下「本件就学生」という。)が、いずれも就学の在留資格を得て入国し、いまだ大阪入国管理局京都出張所長から報酬を受ける活動の許可を受けておらず、かつ、今後許可を受けても許可条件に違反し、一日四時間を超えて右活動をすることの情を知りながら、右「丙川アカデミー」から同市山科区《番地略》の当時の株式会社丁原色素化学工業所(以下「丁原色素」という。)に電話をするなどして同会社総務部次長Cに対し、本件就学生を同会社の工員として紹介し、もって、業として、外国人に不法就労活動をさせることに関し、あっせんしたものである」というものであるところ、被告人Aが丁原色素のCに対し、本件就学生を右公訴事実記載の日時、場所において工員として紹介したこと(以下「本件紹介行為」という。)、これに基づき本件就学生が丁原色素においてそれぞれ就労したが、B、D及びEにおいては資格外活動の許可を受ける以前に就労を始めるとともに、資格外許可を得た後も一日四時間以内という許可条件を越え、約八時間から長いときには一〇時間を越えて就労していたこと、Fは資格外活動を受けないまま就労していたことといった外形的事実については、被告人らも特に争っておらず、関係証拠により容易にこれを認めることができる。

二  しかしながら、本件紹介行為に際しての被告人Aにおける本件就学生の資格外活動の就労に対する認識の内容については争いがあり、同被告人は、本件就学生が許可条件に違反して一日四時間を越えた就労活動をすることの認識があったことは認めるものの、原審及び当審公判廷において、本件就学生の就労時間は一日約六時間であるとの認識であった旨述べ、原判決もその旨認定しているところ、検察官は、同被告人には本件就学生の就労時間が一日約八時間であるとの認識があった旨主張しているので、当裁判所としては、この点が結論に影響を及ぼすものとは考えないものの、審理の経過にかんがみ検討を加えることとする。

1  まず、関係各証拠によれば、本件紹介行為の経緯として以下の事実を認めることができる。

(1) 被告人Aは、平成二年末から平成三年初めにかけてのころ、C(当時は丁原色素の総務課長)から、被告人会社の経営する丙川アカデミーの学生をアルバイト生として紹介して貰いたい旨の依頼を受けてこれを承諾し、そのころから平成六年三月ころまでの間に、少なくとも一五名の学生をアルバイトとして紹介した。

(2) Cは、初めて被告人Aにアルバイト生の紹介を依頼した際、丁原色素における正社員の勤務時間が基本的には午前八時三〇分から午後五時三〇分の八時間(休憩時間一時間を除いたもの)だったことから、アルバイト生にも同様の時間の就労を求めようとしたが、同被告人から本来資格外活動として許される時間が四時間であることの説明を受け、さらに午後二時ころ以前の就労は本来の学業に差し支えるからだめだと言われたため、正社員の残業を考慮して午後二時から八時までの就労ということで了承を求め、同被告人もこれに応じることとした。

(3) しかし、その後丁原色素においては、正社員の労働時間を二交替制に変え、遅番の社員は午前一一時からの勤務となったため、アルバイト生に求められる就労時間も長くなり、遅くとも本件就学生のBが就労を開始した平成四年九月ころまでには、その就労時間が午後一〇時ころまでの八時間に及ぶことが稀ではなくなり、丁原色素とアルバイト生との間の雇用契約書にも、労働時間が午後二時三〇分から午後一〇時三〇分の八時間と記載されるようになっていた。その後、現実には、本件就学生の就労時間が午前零時を越えることもしばしばあった。

(4) 被告人Aが最初の紹介以降に本件就学生を丁原色素に紹介するのは、Cから以前のアルバイト生が辞めるなどの事情で補充を依頼され、あるいは同被告人の側で日本語学校への授業に出席しない者を辞めさせるため補充するなどの理由であり、その際は、Cと連絡をとった後、既に丁原色素で就労している者に付き添わせて案内させるという方法をとっており、本件就学生を紹介したときにも、丁原色素に迷惑をかけないという内容の誓約書には署名したものの、丁原色素と本件就学生との間の雇用契約書の作成には直接関与していない。

2  右のような経過のもと、被告人Aは、捜査段階において、本件就学生の就労時間についての認識につき、「許可時間の四時間を三~四時間オーバーすると思っていた」「午後一一時ころには仕事が終わると思っていた」「就労時間が約八時間程度であれば大目に見てもらえるのではないかと思っていた」などと、本件就学生の就労時間が一日八時間程度に達することを認識していたことを認める趣旨の供述をし、原審第二回公判における被告人Aの陳述に際しての書面にもこれを認める記載がなされているのである(なお、この記載については後の原審公判廷における供述で誤りであったと述べている。)、これらは同被告人自身の認識について自ら述べたものである上、その内容が具体的で一貫しているのであるから、被告人Aにおいては就労時間につき一日約八時間との認識があったと認めるのが相当である。

3  これに対し、原判決は、Cがアルバイト生の紹介を依頼した当初、六時間の就労時間で了承を求めていること、Dが被告人Aから「終業が午後八時三〇分になるかもしれない」旨告げられたと供述していることをもって、被告人Aの捜査段階における供述が信用できない旨判断している。しかしながら、問題となるのは本件紹介行為時において同被告人がその実態を知り得ていたか否かであるところ、丁原色素におけるアルバイト生の就労時間が長くなったのは正社員の二交替制が導入された後のことであるから、当初Cから依頼された時における同被告人の認識が直ちに本件紹介行為時の認識と一致するものではない。そして、同被告人がCに対し十人を越えて継続的にアルバイト生を紹介していたこと、その間、資格外活動等についてほとんど注意を払っていなかったCに種々の説明をしたほか、何らかの理由でアルバイト生が退職した際にはその補充をし、一方、丁原色素の関係者に丙川アカデミーの就学生の身元保証人を引き受けて貰うなどの交渉があったこと、平成四年一一月ころ、京都戊田日本語学校の不法就労関係事件が問題となった際にも、Cと同被告人との間で連絡を取ったこと、一方、それまで紹介されたアルバイト生は、基本的には真面目に丙川アカデミーの授業にも出席しており、同被告人と会って話をする機会もあったはずであること、などの状況からは、同被告人が丁原色素におけるアルバイト生の就労実態を知り得てもおかしくはなく、前記被告人の捜査段階における供述調書及び第二回公判における意見陳述の書面にも「後に聞いた」旨の記載があることからすると、同被告人は、丁原色素が二交替制になった後の何らかの機会において、自己が丁原色素に紹介したアルバイト生の就労時間が八時間に達することがあることの認識を得たものと認めることができる。また、Dの供述部分も、仮にそれが事実であって、同人が同被告人からそのような趣旨のことを言われたと認識していたとしても、その文言自体は明確でなく、原則的な就労時間と残業等の時間との関係等を考慮すると、右事実が必ずしも同被告人において八時三〇分を越える就労があり得ることの認識を欠いていたことを示すものとは解されず、これも前記被告人供述の信用性を否定すべきほどの証拠とは言い難い。

4  なお、被告人Aは、原審及び当審公判廷において、捜査段階の供述については勘違いがあった旨述べ、また、弁護人は、同被告人の右勘違いには捜査官による強い誘導の影響があった旨主張するのであるが、右公判廷、特に原審公判廷における同被告人の供述は、事実と異なる調書が作成された経緯につき、一方で自己の勘違いであると述べながら、他方で就労時間に関する認識が八時間ではない旨主張すると捜査官に最初からやり直しだと言われたためやむなくこれを認めたかのような供述をしたり、事実経過としても本件紹介における自己の関与をことさら薄めたりするなど、自己の刑事責任を回避しようとする態度が顕著であって、それ自体信用性が低い上、弁護人も述べるように、同被告人が許可条件の一日四時間を越えた就労の認識を認めている以上、取調べにおいてはその越える時間の長さについての認識が問題になっていたと考えられるところ、前記のとおり、本件就学生は問題とされている約八時間よりも長い約一〇時間就労していたことも多いのであるから、捜査官としては一〇時間の認識を追及したと考えられるのであり(被告人Aも一〇時間との認識について追及を受けたことを認めている。)、その中でかなり具体的かつ強力に八時間の認識を主張している各供述調書等の内容が、捜査官の誘導による影響等のある被告人Aの勘違いに基づくものとは到底考えられない。

5  以上のとおり、被告人Aは、本件就学生が約八時間は就労するとの認識を有していたものと認められ、これを六時間程度の認識にとどまるとした原判決は事実の認定を誤ったものと言うべく、この点で所論は理由がある。

三  なお、不法就労の認識のうち、資格外活動許可以前に就労することの認識について、弁護人は、被告人Aにおいては本件就学生が資格外活動許可以前に就労を開始するか否か知り得る立場になかった旨主張し、同被告人もこれに沿う供述をするが、同被告人が本件就学生を含むアルバイト生を紹介するのは、丁原色素の側では欠員の補充等で直ちに労働力を必要とし、アルバイト生の側では少しでも早く収入を得たいと考えている状況であること、資格外活動許可については、その申請から許可まで一定の期間を要すること、Cにおいては、右許可以前の就労が許されないものであるとの認識が希薄であったこと、そして、同被告人はこれらの状況を十分認識していたことが認められるのであり、そうすると、同被告人が本件就学生を紹介した際には、本件就学生が資格外活動の許可を受けるまで待機することなく、紹介後直ちに就労を開始することは当然予想できたものと認められる。

弁護人は、被告人AがCに対し資格外活動の許可を取得させた上で就労させるように要請した旨主張するが、就労させる以上資格外活動の許可を取得させるべきであるという点はともかく、就労開始以前に右許可を取得させるよう要請していたことを示す証拠はなく、右事実は存在しなかったものと認められ、弁護人の主張は採用できない。

四  以上のとおり、被告人Aにおいては、丁原色素が本件就学生を資格外活動許可取得以前に就労させたり、右許可を得てもその許可条件に違反して一日八時間位までは就労させたりするであろうことを認識していたものと認めることができるのであるが、さらに、当時、同被告人は、就学生においては八時間程度の就労活動はやむを得ないものとの考えを持っていたことが認められるのであり、これらの事情に照らすと、本件紹介行為の際、丁原色素の右不法就労活動をさせる行為を容認していたことは明らかであって、不法就労活動あっせんの故意を認めることができる。

五  そこで、以上の事実を含めて認定できる公訴事実記載の事実から、これが出入国管理及び難民認定法(以下単に「法」という場合は同法を示す。)七三条の二第一項三号に該当するか否かを検討する。

1  まず、法七三条の二第四項は、不法就労活動として法一九条一項の規定に違反する活動等を掲げているところ、法一九条によれば、就学の在留資格を持つ外国人が、法務大臣の許可を受けずにする報酬をうける活動を行ってはならないのであるから、これを行えば「不法就労活動」に該当することは明らかである。本件就学生の丁原色素における就労は、許可日以前のものについては右許可をまったく得ていない点において、許可日以後のものについては許可条件たる一日四時間を越えており許可違反であるという点において、いずれも不法就労活動に該当する。そして、法七三条の二第一項三号は、いわゆる不法就労助長罪の一つとして「業として、外国人に不法就労活動をさせる行為…に関しあっせん」する行為を掲げているのであり、丁原色素が本件就学生に不法就労活動をさせるであろうことを認識し、認容しつつ本件紹介行為をした被告人Aの行為が、この不法就労助長罪に該当することもまた明らかである。

2  ところで、原判決は、本件紹介行為の動機ないし目的に不当なものはなく、その紹介の方法ないし態様等も格別非難に値せず、保護法益侵害の程度も軽微であることを理由に、本件紹介行為が法七三条の二第一項三号の予定する違法なあっせん行為には当たらないものと判断している。この意味するところは必ずしも明確ではないが、そもそも同号の立法趣旨が、不法就労外国人を来日させる推進力又は吸引力になると考えられるようなあっせん行為を取り締まることにあるとして、そのあっせん行為に何らかの限定を加える趣旨であるか、または、本件紹介行為の違法性が低く、同号のあっせん行為としての可罰的違法性を欠くという趣旨であると解される。しかしながら、このような解釈は採用し難い。

すなわち、法七三条の二第一項三号の立法趣旨が、不法就労外国人を日本に来させる推進力又は吸引力となっているあっせん者を取り締まることにより不法就労外国人取締りの実効を期そうとするものであることはそのとおりであるが、文言上あっせん行為の内容が業としてなされることを要するほかは何ら限定されていないだけでなく、実質的にみても、被告人Aのように業として不法就労活動のあっせんをすることは、不法就労活動をしなければ日本において生活できない外国人までも来日しようとする結果をもたらすのであって、これはそのあっせん行為によって同被告人が利益を得ようとしたかどうかといった態様にも、その結果なされた不法就労活動により就学生の就学活動が妨げられたかどうかといった結果にも関係のないことである。これに対し、原判決は、就学生の就学活動を妨げないことを強調している点で、就学活動を妨げるような就労活動のみを不法就労活動として問題視するようにもみえる。しかし、そもそも行政法規たる出入国管理及び難民認定法において一定の就労活動に許可を必要とした以上、許可に違反した就労活動は違法な不法就労活動と評価されるものであって、その不法就労活動に関する犯罪が成立するか否かの判断に際して、許可に違反した事実のみならずその違反行為によって発生した結果まで考慮することは相当でない。この点をさておいても、就学生が何らかの活動をするに際して、それが就学活動を妨げてはならないのは、就学生の在留資格が就学である以上当然のことであり、就学活動が疎かになれば在留資格の基礎が失われ、その更新ができないといういわば必要条件であって、特に就労について資格外活動許可を必要とした趣旨ではない。そもそも出入国管理法の立法目的は抽象的には出入国管理秩序の維持であるが、その中での在留資格の制度は、日本の国益の確保と外国人の権利保障との調和の基に外国人の受け入れを図る制度であり、いかなる外国人にいかなる活動を認めることとするかは多様な角度から種々の要素を考慮することの必要な問題である。特に、外国人の就労活動については、外国人単純労働者の安価な労働力が、国内労働者の労働の機会を奪ったり労働条件向上の障害になったりすること、あるいは公正な経済秩序を乱すこと、不法就労の足元をみた安易な解雇により生活力を失った外国人が巷に増大して社会不安を引き起こしかねないことなど、外国人労働者自身に対する人権問題以外にも多くの問題が考えられるところであって、非就労資格をもって在留する外国人にいかなる就労活動を認めるべきかの点に関しては、右の多くの問題をも考慮した高度な政策的判断が必要となるのであり、これを法務大臣の許可にかからしめることにも合理性があるところである。そして、現在、就学生に対しては、資格外活動許可の申請がなされたときは、一日あたり通常四時間の制限を付し、風俗営業又は風俗関連営業が営まれている営業所以外の場所で行われることを条件として包括的に許可されるのであるが、これは就学生の在留資格の問題、外国人就労の問題及び現実の就学生の状況等諸般の事情を考慮して定められたものであるから、原判決のように就学を妨げないという点のみを重視することが不当なことも明らかである。

結局、四人の本件就学生について業としてなされた被告人Aのあっせん行為は、法七三条の二第一項三号の予定するあっせん行為として欠ける点はなく、不法就労活動の許可違反の時間の程度においても、許可前の就労の期間の点においても、その程度が軽微とは言えず、その他、本件における被告人Aの行為につき違法性を否定すべき事情は見あたらない。

3  なお、弁護人は、就学生、特にアジア地域からの就学生において、資格外活動許可が得られる範囲を越えて働かなければ生活できない者が多いという実態を指摘するが、少なくとも現在の在留資格付与及び資格外活動許可の運用においては、就学生は日本において就労活動をしなくても経費支弁の能力があることが本来の原則とされているのであって、右制度の運用が違法ないし不当なものと言うことはできず、たまたまこの原則に合致しない就学生が多いという実態があるとしても、入国に際しての審査を厳しくするのか、逆に右原則を変えるのかといった立法ないし行政における政策的問題が発生するだけであり、これによって許可を受けない就労活動の違法性が失われるものではない。

また、弁護人が、身元保証制度の形骸化を縷々主張して被告人Aの行為が悪質でないことを強調する点も、先に述べたとおり、そのような実質論で犯罪の成否を決すること自体当裁判所の採用しないところであり、検討を要しない。

六  以上のとおり、原判決には一部事実誤認があるが、仮に原判決認定の事実によっても不法就労助長罪の成立を認めることができるのであり、原判決が法令の解釈適用を誤ったとする検察官の論旨は理由がある。

第二  なお、職権により調査すると、原審は、平成六年一〇月七日の第三回公判期日において、被告人Aを被告人会社の代表者として手続を進めているところ、被告人会社の登記簿謄本によれば当時被告人会社の代表者はGであって被告人Aは代表者でないから、この点で手続に瑕疵があると言わざるを得ないが、同年九月二日の第二回公判期日において、当時は被告人会社の代表者であった被告人Aに対して第三回公判期日の告知が適法になされていること、実質的には被告人Aが被告人会社の代表者的立場にあったものと考えられ、被告人Aを刑訴法二八三条の代理人と見る余地もあること、第四回公判期日以降、再び被告人会社の代表者となった被告人Aが公判期日に出頭しているが、第三回期日の審理について何らの異議も述べておらず、瑕疵の治癒があったとも考えられることなどからすると、右手続の瑕疵は、原審の審理結果に影響を及ぼすものではなく、右第三回公判期日になされた証拠調べの結果をも前提に当審が自判することの妨げになるものではない。

第三  前記第一のとおり検察官の論旨は理由があるから、刑訴法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条ただし書により更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

被告人京都甲野アカデミー株式会社(当時の商号は株式会社乙山・ビジネス。以下「被告人会社」という。)は、京都市東山区《番地略》に本社をおき、同所において外国人を対象とする日本語学校「丙川アカデミー」を経営していたもの、被告人A’ことA(以下「被告人A」という。)は、被告人会社の代表取締役兼右丙川アカデミーの事務局長として同校の運営を統括していたものであるが、被告人Aは、被告人会社の右業務に関し、別紙一覧表記載のとおり、平成四年九月中旬ころから同六年三月一六日ころまでの間、前後四回にわたり、同市山科区《番地略》の当時の株式会社丁原色素化学工業所の総務部次長Cが、同会社において不法就労活動をさせる行為、すなわち、いずれも就学の在留資格を得て入国した右「丙川アカデミー」の学生であるBほか三名の外国人を、法務大臣に代わる大阪入国管理局京都出張所長から報酬を受ける活動の許可を受けず、また、許可を受けても許可条件に違反して一日四時間を超えて就労させる行為に関し、その情を知りながら、右「丙川アカデミー」から右Cに電話をするなどして、右Bほか三名を右株式会社丁原色素化学工業所の工員として紹介し、もって、業として、外国人に不法就労活動をさせることに関し、あっせんしたものである。

(証拠の標目)《略》

(法令の適用)

被告人Aの所為は、出入国管理及び難民認定法七三条の二第一項三号に該当するので、被告人会社に対しては右同号及び同法七三条の二第三項を適用し、被告人Aについて所定刑中罰金刑を選択し、その各所定金額の範囲で被告人両名をいずれも罰金二〇万円に処し、被告人Aにつき右罰金を完納することができないときは平成七年法律第九一号による改正前の刑法一八条により金五〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置することとし、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文、一八二条により被告人ら両名に連帯して負担させることとし、主文のとおり判決する。

別紙一覧表

犯行日(平成年月日ころ)、犯行場所、外国人

1  四・九・中旬、丙川アカデミーから京都市山科区《番地略》株式会社丁原色素化学工業所の当時の本社に電話、B

2  五・八・上旬、京都市山科区《番地略》株式会社丁原色素化学工業所本社事務所、D

3  五・二・中旬、丙川アカデミーから右本社事務所に電話、E

4  六・三・一六、同 右、F

(裁判長裁判官 角谷三千夫 裁判官 鹿野伸二)

裁判官 古川 博は、転補のため署名押印することができない。

(裁判長裁判官 角谷三千夫)

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